※ネタバレあります。 まさしく世界観というものを、上手にセッティングし上手に使った秀作。
著者の膨大な江戸文化の造詣を”知識”のままに作中でただ語らせたりなどする事なく”知恵”として効果的に活かした背景をまず作りあげ、そのリアルに仕上がった江戸世界の上で、今度はキャラクターや武器を始めとした存分のフィクションを堂々と描くことにより、作品世界へ読者を魅了すると同時に奇抜な物語の面白味が余りにもダイレクトに伝わる作品です。
それ自体がいわゆるカタルシス的な快感を生み出しているのかも。ふぅ。
このごろ時代物の作品というのは割と「リアルさ」が重視されるようになってきていると思うのですが、この作品のように「ウソっぽさ」に走り、そして面白く仕上げるというのは貴重だし、そもそもリアルに仕上げるよりも難しいことかもしれませんよ。
個人的には「この時代物なのにウソっぽくて面白い」という感動は、チビッ子の時分にアニメ版『るろうに剣心』に惹かれたときの感覚に似ている気がします。
「うぉ、なにこのキャラ!なにこの動き!なにこの武器!」というのが好きな人で、絵が嫌いじゃなければ高確率で楽しめるんじゃないでしょうか。
そうそう、絵柄というか画風がちょっと独特です。
どちらかというと写実的。最近の漫画はたいてい系統を辿っていくといわゆる「萌え絵」に通ずるところがありますが、この作品の絵はちょっと繋がりにくい。
そこで驚くのは、現代の(萌え絵に通ずる)漫画に慣れた感覚で読んでいくのに、今作で「萌え絵」と遠い存在の画風で描かれた女性キャラに
ひどく萌えてしまうことです。
キャラの人数で言えば多くはない部類と言えるかもしれないけど、一人一人の個性が絶妙。
ちなみに自分が一番好きなのは百琳で、次点で槇絵。
凜はときどき主人公のような立ち位置にもなり得るので(感情移入の対象や視点キャラのような)あまり率直に「かわえぇ」とか思いはしなかったのですが、不死力解明編の後半においては唐突に魅力が暴発、可愛さに少しの妖艶さをスパイスとして装備し、萌えにブースト入りました。そのあとまた元通りになったけど。
さてこの作品、時代からくる世界観・倫理観などを反映しているのかもしれませんが、基本的にどの登場人物の性格も、根底の根底には「真面目さ」があるように感じます。悪者でさえもね。
それはつまりキャラクターの行動原理や動機がハッキリするということで、立場が分かるから読者も感情移入するし、話の流れも見えやすくなって理解も深まるとか、良いことずくめ。
そんなキャラたちが関わり合って物語を作るので、必然的に人間ドラマ的な深みも増すわけです。
ただの「悪者」もいるかもしれないけど、自分がなんとなく「悪者」だと思っていたキャラが、読み進めていく内にいつの間にか感情移入の対象に、などという事になるのもまた楽しいのです。
その意味では、先に「立場がハッキリする」と書きましたが、それらを用いて作られるお話自体はドラマ性という観点から見れば決して単純とは言えず、むしろ重厚な流れになっていくわけでございます。
あと、最後にちょっとこの漫画の特徴的なポイントを。
先ほども若干ふれましたけど、凜と万次という二人のキャラクターの関係性が、わりと不安定的です。
最初は万次が主人公のお話なのかなぁと思っていても、成長物語という意味でみれば凜がその中心とも言えます。でも見せ場では万次が活躍するし……かと思えばまた凜が……というような。
要は、おそらく意図的だと思われるこの「どっちが主人公?」または「どちらも主人公」という少し曖昧な配置が感覚的に苦手な人には、読んでいく上でそれがハードルになってしまうかもという事。
自分はこの作品の「味」のような気がして好きですけどね。
タグ : 本 漫画 沙村広明 無限の住人
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